東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7766号 判決
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【判旨】
三次に、請求原因第3項(一)、第4項の事実については当事者間に争いがないので、本件土地の昭和五四年六月一日現在の適正地代を算定することにする。
1 <証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
本件土地は、都営地下鉄六号線の本蓮沼駅の東南約一〇〇メートルに位置する間口約5.7米、奥行約五八米のほぼ東西に細長い長方形の宅地で、その西側の短辺は巾員約二五米(両側巾員約3.5米の歩道付)の中仙道に、北側は巾約三メートルの区道に、東側は巾約四メートルの私道に、南側は蓮沼町五番二の宅地(前述の山上孝の所有にかかる隣接地)に夫々接し(中仙道に隣面する本件土地、隣接地の約二八米までが商業地域(建ペイ率八〇%、容積率四〇〇%)、防火地域に、残り敷地部分が準工業地域(建ぺい率六〇%、容積率二〇〇%)、準防火地域に指定されている。)、右隣接地と本件土地にわたり被告所有の鉄筋コンクリート造の陸屋根三階建の建物が存し、自動車工場兼事務所として使用されており、土地の現状はほぼ最有効使用の状態にあるものといえる。そして、本件土地が所属する近隣地域は、中仙道沿いに事務所、店舗等が建ち並んで商業地を形成し、その背後は共同住宅、本造個人住宅及び中小工場が存在する住・工混在地を形成している。中仙道の道路拡張計画はあるが当分の間はほぼ現状のまま推移するものと思料される。
2 ところで、本件土地は前述したとおり間口約五、七米、奥行約五八米の長方形状の細長い土地であるが、その適正地代を算定するに当つては、前記認定のような経緯、利用形態のもとで隣接地1,639.97平方米と一体のものとして使用されているので、両土地を一体として評価を行なうのが相当であり、その適正地代を算定するに当つては、積算方式、スライド方式、賃貸事例比較方式のいずれか一つの方式をもつて適正地代を算定するのは適切ではなく、これらの方式による算定結果を総合して、本件事案に妥当する適正地代を決すべきものと考える。
<証拠>により、まず、本件土地の適正地代を積算方式により算定すると、昭和五四年六月一日現在における更地価額は、一平方米当り三七七、〇〇〇円、堅固建物の所有を目的とする場合の底地割合を0.2として、本件土地の底地価額は二四、九二五、〇〇〇円(地上権の目的を、普通建物の所有から堅固建物の所有に目的を変更するについて承諾料を支払つていないと認められるので、この点は後で考慮に入れる。)、これを基礎価格として最近の商業地の期待利回りを乗じ(鑑定の結果では、期待利回りは、住宅地の場合、底地価額の1.0%ないし2.0%、普通商業地の場合2.0%ないし3.0%が標準的であるとし、また地上権の場合はこの期待利回りをそのまま採用できないとしているが、最近の裁判例に照して期待利回りはせいぜい2.0%を相当と考える。)、これに必要経費(昭和五四年度の固定資産税、都市計画税の合計額五九六、八九〇円)を加算すると、積算方式による坪当り地代は月額九一三円となる。
次に、本件土地の適正地代を賃貸事例比較法により、近隣地域のサンプルから算定すると、坪当り月額六八〇円ないし一、二九七円であると認められる。
さらに、本件土地の適正地代をスライド方式により算定すると、昭和五一年七月一日現在の合意賃料は月額四一、六六七円(坪当り四一七円、昭和五一年度固定資産税、都市計画税の1.38倍)、純賃料は九、九二九円であるので、これに変動率一一五、四を乗じると、昭和五四年六月一日現在のスライド純賃料は年額一三七、四九二円、これに必要諸経費(昭和五四年度固定資産税、都市計画税)を加算すると、スライド年額賃料は七三四、三九六円、同月額賃料は六一、二〇〇円(坪当り六一二円)となる。
ところで、スライド方式は、計算の基礎となる従前の合意賃料が適正水準の範囲内にあつたこと(特別の事情があつて低廉な場合は、その特別事情の存在)を前提とするので、これに疑問のあるときはこれにより適正額を算出することはできない。本件の場合、さきに認定しているように、昭和五一年七月一日現在の合意賃料は当該土地の公租と比較して1.38倍と低倍率(弁論の全趣旨によると、昭和四九年以降都区内の場合、地代は公租の大体2.0倍ないし2.5倍であると認められる。)であり、低倍率であつた特別事情も認められないので、本件の場合、スライド方式に重点をおくことは相当ではなく、参考とするにとどめざるをえない。また、賃貸事例比較方式は適当なサンプルがあるときには、これによる具体的妥当性があるといえるが、本件の場合、類似性に問題がありまた賃料額があまりにも違つているので、これによることも適当でなく、これも参考とするにとどめざるをえない。そうすると、本件の場合は、積算方式に重点をおき、これにスライド方式、賃貸事例比較方式の結果を参考にして適正地代額を求めることになるが、それは月額坪当り九一六円と算出される。なお、本件の場合は、前述のとおり、地上権の設定の目的の変更について承諾料が払われていないので、このことを参酌しなければならない。右承諾料は従来の決定例を参考にするとおおむね更地価格の一%ないし五%であり、この変更は地上権の場合でも期間の延長をきたす意味をもつていると考えられるので、更地価格の二%と考えるのが相当であり、この承諾料は増加地代の資本還元価格であるからこの金額に資本還元率年五%を乗じて増加地代分を算出すると月額坪当り一〇四円となる。
そうすると、昭和五四年六月一日現在の適正地代は、右普通賃料に増加地代分を加えて月額金一〇二、〇〇〇円(坪当り金一、〇二〇円)と算出されることになる。
(山田二郎)